ある晴れた日の夜。
大学の友人と飲み会をした日のこと。
外は真っ暗で家につく頃には日付が変わろうとしていた。
家について居間へおぼつかない足で移動する。
・・・最初は自分が酔っているから幻覚を見ているのではないかと思った。
窓から差し込む光に移ったり消えたりする影。
近づいていくとその影がはっきりと目に映った。
花浅葱色の羽をした蝶々。
「・・・そ・・う?」
もう2度と呼ぶことは無いだろうと思っていた名を呼ぶ。
手を伸ばすとその蝶はゆっくりと指に止まった。
見間違いなどしない、この蝶は霜だ。
「霜・・・なんで、帰ってきたんだ?」
震えた声で問いかける。けれど返事なんて返ってこない、相手は蝶だ。
月の光を浴びれば人間の姿に変わるのではなかったのか?
窓からは光が差しているし、霜は何度も光を浴びている。
「どうしてだ・・・?」
窓を勢いよく開けて外を眺めると、この光は街灯だった。
そして月は・・・
「・・・新月か。」
月は無かった。
これでは話ができないが、それでも良かった。傍にいてくれるだけで良かった。
「・・・お前が虫でも構わない。
いなくなってから気がついたんだ・・・お前がどれだけ大切な存在だったかって。」
一人言葉を紡いでく。
飾り気なんてない、それでいいと君がいってくれたから。
「頼むから・・・傍にいてくれよ。」
必死の思いで気持ちを伝える。けれどそれも届いていないのか、霜は飛び立とうと羽を広げた。
「いくな、どこにも・・・ずっとここに・・・っ。」
身体を手の平に封じ込める。それでも外へ飛び立とうとして霜は羽をばたつかせていた。
どこにもいって欲しくない、ただ傍にいてほしいそんな純粋な思いがいつしか姿を変え・・・狂気に変わった。
理性を亡くし狂気に囚われる。
パキン
世界が崩れる音がした。
はっとして自分の手元を見ると、硬直した身体。そして手から零れ落ちた物。
俺は霜の羽を折っていた。
だんだんと冷静さが戻り、ようやく自分の仕出かしたことの重大さを理解する。
空飛ぶ翼を奪った、俺は霜の生きる世界を奪ったのだ。
目の前が真っ白になった。
一時でも欲に負けた自分が憎くて仕方なかった。