魅闇美

呪縛の月光蝶《後編》

目が腫れぼったくなるくらい泣き続けた。
泣きすぎて幾分かすっきりしている。
落ち着きを取り戻し始めたときには時刻はもう夜明けであった。
「お兄さん、僕・・・そろそろいくね?」
その言葉がどんなことを指すか嫌でもわかる・・・君がいなくなる。
「あ〜さっさといけ。」
鼻をすすりながらそっけなく言う。
「・・・冷たいなぁ。」
「これで窓の鍵開けっ放しにするなんて無用心なことしなくてすむだろうし、布団も一人で占領できるしなぁ〜。」
背中から窓を開ける音が聞こえた。
「今まで・・・ありがとね、楽しかった。」
気が緩めば涙が再び零れてしまいそうだった。
それほどに辛くて苦しくて、でもそんなこと言ったら君が困ってしまうから、 平気なふりして見送ってやろうと思った。なのに・・・笑顔で別れられるほど強くなくてごめん。

こうして霜は俺の所から消えていった。

いなくなってからその物の大切さを実感する、それはよく聞く言葉。
だけどそれを改めて痛感することになるとは思わなかった。
「ただいま」と呟いてもあの声は返ってこない。
窓を開けっ放しにすれば入ってくるのは雪と泥棒だけ。
一人用の布団は一人用なのに・・・一人でも広く感じる。
全てはなくなってから気づくこと。
残ったのは思い出、後悔、行き場を失くしたある思い・・・。

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