「玲司昨日災難だったね。」
朝、学校に着くと丁度教室から出てきた絢と会って他愛のない話をしていた。
始終緊張しっぱなしで会話といえるのかは微妙だったが。
「そうだよな、夕方までこき使わされてくたくただったよ。」
「それでこれなかったんだ・・・。」
残念そうに見えるのは俺の目の錯覚か、それとも本当に残念そうにしているが社交辞令か。
どう言葉を返せばいいのか解らずに黙り込んでしまう。
会話が途切れた。
この場合ここで別れるのが妥当だが、少しでも会話を引き伸ばしたくて必死で話題を探す。
少しでも絢と話したい。一緒にいたい。
「き、昨日・・・どこ行ってたんだ?」
「昨日ねぇ、カラオケいったりみんなでご飯食べたりしてたよ。」
笑顔で答えてくれる絢に愛しさが増すのは言うまでもない。
「そうなんだ・・・えっと昨日な・・・」
言葉を返している途中、まだSHRまで5分もあるのに担任が入ってきた。
「席座れ〜。」
担任はそう言いながら教卓の前に移動する。
「・・・先生早くない?どうしたんだろ?」
「気まぐれじゃないかな。」
名残おしいがしょうがない。
お互い「じゃあ」と言って席に戻る。
せっかくの素晴らしい朝の時間が遮られ、俺はややふくれっつらで机に頬杖をつく。
またしても担任、もといサディスティックな恋の神様に邪魔された。
はげてしまえと心の中で呪う。
「今日はこのクラスに転校生がくるぞ〜。」
担任は陽気にいつもより早く始まったSHRの理由を説明する。
そのうきうき具合が余計にむかつく。
なんで生徒より担任が嬉しそうにしてるんだ、はげろ。
教室がざわめき、高揚感に埋め尽くされた。
転校生なんて期待するとろくな事はない。
ちょっと暗めな感じの奴が出てくるか、不良っぽい奴が出てくるかだ。
転校生が美形なんていうのは漫画やドラマの世界だけ。
そんなことが現実世界で起きるのは天文学的数字だと俺は思う。
隣の席の女子がきゃーきゃーとはしゃぐのを横目で見て、
あまり期待しないほうがいいよなんていってあげたくなった。
担任があまり綺麗ではない字で転校生の名前を書く。
丁寧に書こうとしているのか書くのが遅く、焦らされているみたいでイライラした。
やっと書き終わった名前。黒板の真ん中に大きめな漢字が並ぶ。
水無月 千歳
千歳。これじゃあ性別が判別できない。
クラス中が男がいいとか、女子かな〜とか話し出した。
そんな喧騒を担任は止めさせようと「静かに」と何度も繰り返す。
「そろそろ入ってきてもらうぞ。」
そう言った瞬間、クラスはシーンとなった。
緊張の一瞬。
担任が名前を呼ぶと、勢いよくドアが開いた。
ドアから出てきたのは中性的な顔立ちの人物。
綺麗だ、とお世辞ではなく正直に思った。
身長は高くも低くもないが手足の長さはモデル並。
制服が届いていないのか大きめのパーカーに短パンをあわせた服装である。
かなりすいている亜麻色の髪は肩にかかっていた。
俺の予想とは遥かに違う美形。
絢という想い人がいながら、不覚にも俺は一瞬水無月千歳に惚れてしまった。
惚れたのは本当に一瞬。
クラス中の視線が集っているにもかかわらず、水無月千歳は緊張もせず不機嫌そうな顔で自己紹介を始める。
「水無月千歳。どーぞよろしく。」
ハスキーボイスが全然よろしくって感じのしない挨拶をした。っていうか終わり??
言い終わると水無月は勝手に空いている窓側の一番後ろの席へ移動し、どかっと座る。
呆然とした。それは俺だけに関わらずクラス全員。
「ええと、そうゆうことだ。全員拍手。」
転校生が着席してから拍手をするなんて聞いたことない。
そんなこんなで水無月千歳は容姿の良さだけではなく態度の悪さで学年の有名人になった。