「あの性格の悪さは女だって。」
「え〜、でも態度がなんか男の子っぽくない?」
「いや、あの顔は女だ。」
「なぁ、隣のクラスの高橋が水無月呼び出して告ったってよ。」
「そういやそれで告白されたの水無月三十人目じゃなかったか?」
「顔だけで選ぶって男って本当可愛い子に弱いんだから、騙されてもしらな〜い。」
転入してきて一週間。水無月の話を耳にしない日は無かった。
きっと一ヶ月もすれば飽きて話題は変わると思うが・・・
男五十斬りとか教師とできてるという噂、授業はサボりまくり。
「よくやるよな〜。」
それが俺の感想。
授業をサボるなんて模範生(らしい)俺には考えられなかった。
「水無月は黙ってりゃ可愛のにな。」
席の近い級友との休み時間の会話。それにもやはり水無月の話題は出る。
確かに黙っていれば人形みたいで可愛いかもしれない。
そう思いながら水無月を見ようとしたが、一番奥のあの席に水無月の姿はなかった。
「水無月さん見てない?」
困ったような絢の声が聞こえて声のするほうを見ると、絢が水無月の行方を聞いて回っていた。
「水無月探してるのか?」
絢のほうへ近寄って声をかける。
「玲司。・・・うん、次の授業文化祭の役決めとかでしょ?
勝手に決めるのって悪いし、やっぱりみんなで集って話すのが楽しいよ。」
(絢・・・。)
あんなに性格の悪い奴にまで優しさを配るなんて、やっぱり俺は絢が好きだ!!
「玲司?」
「・・・探してくる。」
無意識に口からそんな言葉が出た。
そして気づいたときには走り出している。
どこにいるのかなんて見当が付かない、けど片っ端から探してやる。
あんなにクラスのことを思っている絢、力になりたいと思った。
好きだからっていうのも有るけど、俺だって今のクラスは好きだ。
どうせならみんな仲良くしたい。
長い廊下を走りながらどこから探そうかと考える。
いきなり風が吹いて窓から白い羽根のようなものが入ってきた。
目を凝らすと白い物体は桜の花弁だった。
(学校の桜、この辺りにもあったのか・・・)
気になって窓に近づくと、目の前に薄紅色が広がった。
目がチカチカする蛍光色とは違い、優しい色合いの淡い薄紅。
その薄紅の下で気持ちよさそうに眠る人影。
それは俺の探している当人だった。
「あいつ・・・あんなところで・・・っ!」
急いで階段を降り外へ飛び出す。
窓から見た光景と変わらずに、水無月は桜の影に横たわりすやすやと眠っていた。
その傍らに静かにしゃがんで顔をのぞく。
こうして黙っていれば本当に可愛い。
うっかり一瞬惚れてしまった自分に今でも同感できる。
好きに似ているこの気持ち。
これは憧れなのだろうか、ただの好感なのだろうか。
桜の花弁が髪飾りのように水無月の髪に舞い落ちる。
髪に落ちた花弁を摘まむと一緒に髪の毛まで掬ってしまった。
するすると指をぬける艶やかな髪。
女の子独特の甘い匂いがほんのりと香った。
なかなか目覚めない眠り姫。
安らかな寝顔を見ていると起こすのが可哀想になってしまい、もう少しだけ寝かせといてあげることにした。
それに・・・もう少しだけこの寝顔を独り占めしたかった。
その寝顔にしばらくの間見惚れていた。
突然水無月の瞼が開き、驚いて後ろに腰をついてしまった。
ゆっくりではなく勢い良く瞼が開いたから大げさなくらい驚いてしまった。
「なに・・・?」
眠そうに目を擦りながら水無月は問う。
「あ、えっと、水無月呼びに来て・・・その次の授業文化祭の話し合いだから。水無月にも出て欲しくって。」
途切れ途切れに伝える俺に、水無月は曖昧な相槌を打つ。
いい終わると水無月は笑いを堪えるように言った。
「・・・もう授業始まってるよ。」
「へ・・・。」
時計を慌てて見ると、授業が始まって十分経っていた。
「はぁ〜〜〜〜???」
そんなに俺は水無月を見ていたのか??
「呼びに着たのに時間に間に合わなかったの?それとも、見つめてたら時を忘れちゃった?」
「み、見てたの知って・・・っ!!」
にこっと笑顔で返される。
恥ずかしくて死にそうだった。
「・・・頼むからこのことは内密に。」
「どうしよっかな〜。」
水無月は嬉々としながら髪をいじっている。
「いや、マジで頼む。見惚れてたなんて。」
「ただ見てたんじゃなくて見惚れてたの?」
「あ!!・・・ちがっ!」
「もう、遅い。」
笑みが余計増す。
「違う!水無月じゃなくて桜に見惚れてたんだ!!」
「ふぅん・・・・。」
そっと水無月は手を伸ばして何をするかと思えば、俺の頬を撫でた。
くすぐるような触り方、優雅な微笑。
触れられた頬がなぜか熱くなってしまう。
「まっかっか。」
言葉にされると余計に意識してしまって熱は上昇する。
女の子に触られただけで赤くなってしまなんて格好悪すぎだ。
いや、女の子だからというわけではないのかもしれない
俺には絢がいるのに・・・!!
そう思うと今の自分が浮気をしているような感じがして、俺は勢い良く立ち上がり水無月から離れた。
そんな俺を水無月は驚いたように見つめる。
立ち上がってその場から逃げるように走り出した。
(俺は絢一筋だ〜〜〜〜〜!!!)
頭を冷やすように全力疾走する。
なんでこんな気持ちになるのか。
確かに顔は好みだけど、性格ブスはお断りだ。
胸にちらつく変な想いを否定して、ひたすら絢の名前を呟いた。