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正松

短編物語詩集『オト』

「ハミング・ブラックボックス」

瓦礫の山から掘り出した音をささやく箱は、彼の宝物になった。
駆け足で自宅にそれを持ち込み
流れ出す一定の規則性を持った音に、熱心に耳を傾けた。

しばらく彼がその音楽に浸っていると
背後の玄関の扉が錆びついた音を立てて開いた。
彼の祖父が帰宅してきたのである。
祖父は、村の集会の取りまとめ役として出かけていたのだ。
「じいちゃん、おかえり。」
「ああ、ただいま。」
外はもうすっかり暗くなり
町のあちこちに設置された簡易街灯が
ちらちらと、弱い炎を吹かしているのが窓から見えた。

祖父は息子の眼前に置かれている黒い物体に目を遣った
瞬間、祖父は眼を見開いた。
まるで、死んだと思われていた親しい者と邂逅したような
そんな表情を露にしていたのである
しばらく間を置いた後、祖父はどたどたと狭い家の中を駆けて
自らの使用する部屋に転がるように入っていった
そして、部屋の中をひっくり返すような音が聞こえてきた

騒がしい音が止み、祖父は薄い円盤状の物体を片手に
箱のあるリビングへと足を進めていた。

リビングに戻ってきた祖父は5、6分前とはうってかわって
少し落ち着いた様子だった。
祖父はゆっくりと黒い箱に近づき、少し窪んでいた部分に指を押しつけた
すると音が止み、箱が緩やかに口を開けた
もうひとつの薄い円盤の回転が収斂していく様子が、そこにはあった。
祖父はその口の中の円盤を取り出し、すでに手に持っていた円盤と取り替えた。
祖父は再び窪みを押して、箱の口を閉ざし、別の窪みに指を導いた。
そして、少年にとって予想もしていなかった事が起きた
ついさっきまで堰き止められていた音が、また流れ始めた
訳ではなかった。
音の規則性が全くと言って良いほど、変わってしまったのである。

彼の祖父が箱のつまみの様な部位をひねると
箱のささやきが次第に増大していき
やがて、確かな歌声となった。
美しい歌声が、家中を満たした。

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