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正松

短編物語詩集『オト』

「瓦礫の村で」

嫌になる位よく晴れた日に、僕は瓦礫の山の合い間を
迷った犬のように彷徨っていた。
別に帰り道を見失った訳ではなかったが
他人の眼を通して僕を観察すれば
間違いなく、彷徨っているように見えるのだろう。
それは明白な事だろう、と、漠然とした確信を持ちつつ
僕は自分のつま先がガラクタを蹴とばしながら進んでいくのを
ただただ
ぼんやりと見つめていた。
今の僕には何か
決定的に何かが足りていない。
肉体的なものではなく、精神的なものでもない
何かが足りない。
そう思っていた。

今現在の日常は、「無畏」と言う言葉を
そっくりそのまま書き著したようなものであった。
脅威となるような存在は無く
崇め敬う存在も居ない
そんな毎日であった。

以前は、育ての親である祖父を
異常なほどに慕っていたはずだった。
出稼ぎに行って長期間帰ってこない親に代わって
一般的な必要最低限のマナー、規則を教えてくれたし
都会での出稼ぎで必要になる知識も身に付けさせてくれた。
祖父の下で学んだ計算術は、この瓦礫だらけの村の勤労で大いに役に立った。
気まぐれで、何故世界の海が干上がってしまったのか
何故不毛地帯が大地のほとんどを埋め尽くしてしまったのか
何故日本(と呼ばれていた大昔の国)は滅亡してしまったのか
何故祖父は先の大戦で生き残る事ができたのかを
寓話混じりで語ってくれた(少し前まで、僕はそれが楽しみでしょうがなかった。)
しかし、いつからか僕はそれらに対する興味を失ってしまった。
完全にではないけれど
本当にいつの間にか
僕の意識の無いところで、消失してしまったのだ。

何とも言えぬ不興の中を彷徨っているうちに
少年は、ふと、小さな変化が瓦礫の山の中にあることに気が付いた。
金属を優しく、規則正しくはじく音響が
微かに、微かに、響いていたのだ。
その音は、少年が今までに聞いたことのない、「不思議」な音であった。
この時の彼は音楽と言うものの存在を
全く、本当に全く、知らなかったのである。

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