梔子いろは

『少女と魔女の七日間。』

《December.19》

 今日も私は森に入り、百合の花が咲き乱れる小道を通ってあの小屋に行った。時間はまだ午前だったが、十二月ということもあり少し肌寒い。これで雪がまだ降っていないというのが不思議な話だった。降るなら早く降ってほしいと思う。はっきりしないのが、私は一番嫌いだった。乱暴に、尚且つ勝手に扉を開いて、家の主を呼び立てる。…だが。
「暇だったから来てあげたわよ。…いないの?」
 ネルスという男は不在だった。あのテーブルの上にはすっかり冷めきった紅茶。そして私が昨日あげた本。三分の一くらいの場所に、黄色い栞がはさんであった。一応、読んではいるらしい。と、その栞に手書きの文字らしきものが見えて、それを引っこ抜く。
一番初めの文章に、《親愛なるアリス嬢へ》と書いてあった。
《親愛なるアリス嬢へ。
 昨日君に来いと言ったが、私の方で用事が出来たので、君の相手をすることができなくなってしまった。本当にすまない。この埋め合わせは明日必ずしよう》
「…何だ、いないのか。」
 期待をしていた分、なんだか心にぽっかりと穴が空いたようだった。つまらない、そう呟いて、この日は素直に退散したのだった。

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