梔子いろは

『少女と魔女の七日間。』

《December.20》

「今日こそいなかったら殺す!」
 森を駆ける途中物騒にそう独り言をこぼし、例の小屋のドアを勢いよく開けた。
「やぁ、お嬢さん。昨日はすまなかったね。」
「ごめんですんだら警察はいらないわ。」
「…何だか随分怒っているみたいだね。では君を怒らせてしまったお詫びに、何でも答えてあげよう。何か聞きたいことがあるのだろう?」
「じゃあ聞くけど、あなたが魔女だって本当?」
 私は出会った日にもした質問を繰り返した。
「あぁ本当だ。」
「そういうわりには全然それらしくないのね。」
「さぁ?魔女かもしれないし、そうじゃないかもしれないからね。」
 わけのわからないことを言うなぁ、と私は思った。
「何それ。どういう意味?」
 そう尋ねると、彼はふっと笑って、逆にこっちに質問をした。
「未成熟の野菜を、形の決まった入れ物に入れて育てると、どうなると思う?」
「それは…その形に育つでしょうね。」
「つまり、そういうことだよ。」
 そういうこととは、つまりあなたは魔女、魔女って言われて育ったの?問いかける声は、不思議な色を出していた。
「幼いころ、私は魔女と呼ばれていた集団で育ったんだ。だから私は自分のことを異質な存在だと信じているが、もしかしたら普通の人間かもしれない。何せ、」
 子供のころの記憶がないから、と続けられ、自分のことじゃないのに淋しい気分になった。するとそんな私の表情を読み取ったのか、彼はやっぱり笑って、
「お嬢さんがそんな悲しい顔してどうするんだ?」
「だって、なんか、」
 言葉に詰まる私を、ネルスは上手に宥めた。頭に手を乗せられて、そのままなでなでと触られる。
「ありがとう、アリス。」
 その顔で、その声で、こんな時に名前を呼ぶなんて反則だと思う。何でだか分らないけど、そう感じた。

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