梔子いろは

『少女と魔女の七日間。』

《December.22》

 次の日、私はネルスの家で色紙を輪っか状にして繋げる作業に没頭していた。いわゆる、飾りつけに使うあれだ。昨日彼が言っていた「クリスマスなど別にやってもやらなくてもいい」発言に甘えて、私が勝手に準備し始めたものだ。ちなみにこの家の主は、ずっと作業する私の傍らで「人面魚と人魚」という本を読んでいる。この間あげた「人間を食べる人間」を読み終わったらしく、今日新しく持ってきたものだ。もう三分の一のところまで読んでいる。
「ねぇ、本を読む暇があったら手伝ってもらえないかしら。」
「暇なんかじゃないさ。君がくれた本を読むのに忙しい。」
 優雅に紅茶なんて飲みながら、彼はこれまた優雅に笑いそう言った。カップにレモンがささってるから、今日はレモンティーなのだろうか。余所見をしながら輪をつなげていたが、不意に、手元に紙の感触が無くなる。
「あ…ら?紙がもうなくなったみたい。」
「悪いけどココにはないよ?」
「そうなの…じゃあ私の家まで取りに帰るわ。」
 言うなり私はネルスの家を飛び出した。後ろの方で彼の声が聞こえるが、何といっているのか聞き取れない。どうせ、「気をつけて」とかいったことだろう。
「早く戻って作らなきゃ!」
 にょろりと出た太い木の根をジャンプして、草が絡み合った小道を走り、入ってきた所に戻った。早くしなきゃ日が暮れてしまう。冬まっただ中ということもあり、日が落ちるのが早いのだ。街の中を近道して、ありったけの紙をカバンに詰めて、またすぐあの森へと向かう。目指すは、あの魔女が住む赤い屋根の小屋。
「ネルス!ただいま!」
「おかえり、お嬢さん。」
彼は、まるで私が入ってくるのを予想していたかの様に、小屋の扉を開けてくれた。片手には例の本。読みながら待っててくれていたらしい。
「紙、たくさん持ってきたから!今日はここに泊るわ!」
「…私は別に構わないが。年頃の女の子がそんなことしていいのかい?えーと、ユズキさんという方は何も?」
「さっきちゃんと了承はとってきたの。だから大丈夫よ。」
「そうかい?お嬢さんがいいのなら、私は別に何も言わないさ。」
 本当に何も困らないような感じで、彼はそう言った。む、目の前にこんな可愛い女の子がいるのだから、私としては少しは動揺してくれてもいいと思う。
「さ、輪っか作りましょ。あと三日しかないんだから。」
「君は…本当に上から目線だね…。私はまだ読みかけのこれがあるから遠慮しておくよ。」
ヒラヒラと、ネルスは自分の持っている本を泳がせて、座っていた椅子へと腰掛けた。まったく、つれない人だ。
「もう、いいわ。あなたはそれ読んでて!私一人でやるから!」
 私も私でやるべきことを始める。コレの他にも準備することはたくさんあるのだ。少しでもこの作業を早く終わらせなければ、あとが大変になる。
「はぁ、あと三日…。」
 ため息は、深夜まで続いた。

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