真崎珠亜

一時の、


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「頭がクラクラしてます……」
「自業自得だ」
 私が手を離すと、しゃがみ込み頭を抱えながら開口一番にそう言われた。見下ろすと、本当に本気で辛そうである。……少しやりすぎたか。
「大丈夫か……?」
「今天地が大回転中です。あと何かが中から逆流しそうです」
呆れつつもしゃがんで目線を合わせてやると、涙目でそんなことを言われる。……どうやらやりすぎたようだ。
「しばらく休むか?」
「夜になる前に登らなきゃ駄目です……立ち止まってる暇は無いです」
 何故そこまでこだわるのか分からないが、そう言うのなら止まる訳にはいかないようだ。しかし、やった本人からすればこの状態のまま歩かせる訳にはいかない。
「仕方無い。乗れ」
「……重いとか、言いませんか」
「言うかもな」
背中を向けた私の頭に軽く拳が落とされた。
「……いじわる」
「昔からだ」
拗ねたように首筋に顔を埋めて呟かれた言葉に、苦笑混じりに返す。
それから立ち上がり少しだけ足早に歩き出した。 その背中には、確かな重みと温もりを抱いて。
「……道はご存じなのですか?」
「勘だ」

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 勘というのは、案外役に立つものらしい。
「……光」
「そうみたいですね」
しばらく勘だけを頼りに道を突き進んでいると、薄暗かった森が少しずつ色を取り戻していくのが分かった。それからまたしばらく歩くと、前方には光差し込む場所が見えた。
「下ろして頂けますか?」
 不意に横髪を引っ張られそう言われた。
「分かったから引っ張るな」
地味に痛いと言外に付けながら静かに下ろしてやると、地に降り立ち猫のような奇声を上げながら関節を伸ばして笑った。
「何だか申し訳無いです。貴方におぶってもらえるなんて」
「思っていたより重だっ!? 髪を引っ張るな!」
『重くは無かった』と言おうとしたのに勘違いされたらしく、途中で思い切り無言のまま結んでいた髪を引かれた。しかもまだ離そうとしない。
「貴方は思ったことを口に出し過ぎなんです! 本当に大切なことは何一つ言って下さらないのにどうしてそうどうでも良いことは言ってしまうんですか!! もうこの髪だって編んであげませんよ!?」
「その前にそれ以上やられると全部抜けそうな気がするんだがっ!?」
そんなに言ってはならないことだったのか、先程までの具合の悪さは一体どこへ行ってしまったのかと思うほど強い力で引いてくる。これは早く離してもらわないと本当に、編んだ髪が一気に抜けそうな気がしてきた。それよりかなり痛い。


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