◆◇◆
「……本当に貴方じゃないんですよね」
時は戻って現在。私は証書片手に彼にそんなことを訊いた。
「違うよ。僕は人の呪い方とか知らないし」
返ってきたのは、いつもと同じ返事。
ファーストコンタクトの後、次の日も来るとか言いながら私は高熱を出してぶっ倒れてしまったのだ。風邪をひいていたことを、すっかり忘れてしまっていた。
風邪は長引き、一週間近く学校を休んだ。
そして治ってしまい、またも暗い気分で学校に行ったときのこと。絶対に笑われるのだろうと覚悟していたのに、何事も起こらなかった。私が休んでいる間に先生が手を回したのかとも考えたが、私の担任が今更そんなことをしてくれるとは思わなかったし、担任が言ったところで聞くような奴らでは無かったからだ。
私は、新たな虐めかと思った程だ。
それからは何事も無くなった上に、何故か畏怖の目で見られるようになってしまった。それも、屋上の彼と親交が深まれば深まるほどに、だ。
……絶対にコイツなんかしてる。
私はそう思い、ずっと訊き続けているのだが、答えは相変わらずはぐらかされている。……今日で最後だというのに。
「……君はこれからどうするの?」
ふと、彼はそんなことを訊いてきた。
「…………教師に、なろうと思っているんです」
「君が?」
「はい」
笑われる、そう思った。
「……そっか、頑張って」
けれど、彼はいつもの優しい目をしていた。
素直に驚いた。思いっ切り噴き出されるとばかり思っていたのに。
「きっと、世の中には私みたいな人が居るから。助けてあげたいんです」
「良い心がけじゃないか」
「……綺麗事だって、言わないんですか」
「難しいかも知れないけど、君なら出来る気がする」
心からの言葉に泣きそうになった。彼と出会ってから、随分と涙脆くなってしまった気がする。
「……貴方はいつまでここに居るんですか?」
「さぁ? 消えるまでだからー…数年、数十年、数百年…は流石に学校が無さそうだ」
ふと見慣れた笑顔が寂しげに見えたのは、目の錯覚だと思う。
「……また、会いに来ます」
「待ってるよ」
そう言うと、また沈黙が流れた。
私は何となく両手を青天の空に浮かぶ太陽にかざしてみた。
太陽光に照らされた青白い手の中に、血流が見える。
私の左手首には、傷痕は残っていたがもう包帯は無かった。
「…知ってますか」
小さく、私は言葉を口にした。彼が聞いてくれているかは分からない。
「血って、どんな人でも温かいんですよ」
「生きてれば、じゃないのかな」
返ってきた応えに、私は小さく微笑んで応えた。
「私には見えますよ。貴方にも、流れてる優しい色」
「……ありがとう」
「お礼を言うのは私の方です。本当に、ありがとうございました」
深々と礼をすると、彼は少し照れくさそうにまた頬を掻いた。
私は、久々に心からの笑顔を浮かべた。
【4年後】
「先生はここの卒業生なんだってね」
「えぇ。4年前に卒業したばかりです」
あれから4年。私は教育実習生として、あの学校に来れるようになった。
私の性格は随分と変わったと自分でも思う。時間は掛かったが、新しい環境で躓かずに生きてこれたのも偏に彼のお陰なのだ。
時刻はすっかり夜。私は警備員のおじさんと一緒に学校をあとにしようとしていた。
「……そう言えば警備員さん」
「何だい?」
「ここの屋上の鍵って、ちゃんとついてます?」
私は警備員さんをからかうつもりでそう訊いた。まさか一般生徒があの鍵の秘密を知っているなんて警備員さんも思わないだろう。
「屋上…? あぁ、あそこは鍵なんかついちゃいねぇよ」
…やっぱりそうなのか。あれだけ簡単に入れるのなら当然か。
「あそこの鍵はぶっ壊れちまってて、ドアが開かないからな」
…………え?
「ずいぶん前にな、一人の男子生徒が屋上からおっちんで、その後封鎖する前にドア自体がイカちまったらしい…って、先生!?」
私は警備員さんの制止も聞かずに走り出した。だって、だってあそこの鍵は掛かって無くて屋上には彼が居てそれで……
私は急いであの鉄扉の前に来ると、そのノブに手を掛けて回した。
……ほら、ちゃんと動くじゃない。
そして、ゆっくりとそのドアを押し出した―――――――――
…終?
■ATGK■
前号の『Noel(2008年版)』前々号の『金魚玉(学校祭号下巻)』、前々々号の『おいでよ ぶんげいの森』前々々々号の『SPRING BREEZE』又は前々々々々号の『Noel(2007年版)』又は月刊部誌1月号か5月号か10月号の『玉露』を読んで下さった貴方様はお久しぶりです。その他の皆様は初めましてあーもーめんどくせー。
さて、真アが一番楽しみにしている後書きのターンです(お前作品書くの止めろ)。今回はいつもながら時間が無くもの凄く適当な仕上がりになってしまいました……。こんなのを出して良いのか不安で仕方無いです。まぁやっちゃったものは仕方無いので、恥曝して生きてやる!
で。私は今回もっと明るめなほのぼのを目指して書き始めたのに全編通して鬱ってお前いい加減にせぇよと脳内の私がツッこんできます。でも病んでる女の子良いじゃないか! とか思いながらもう一人の自分に反論してます。
本当はもっと書き込みたい部分がありまくるのですが、時間と頁数の関係で断念。もっと霊さんと私の甘々な部分を書きたかったんだ!
この二人名前はちゃんとあるのですが載っけるのが面倒と作品の鬱っぷりが薄くなりそうだったので止めました。さて、何か嫌ーな雰囲気で終わってしまった本編ですが、作者から言えることは一つ。「誰も嘘は吐いていない」ということです。『私』も『幽霊さん』も『警備員』の言うことも全て真実なんです。
……え? 最初の幽霊の言葉矛盾してんじゃねぇかって? 仕方無いじゃないか! 印刷した後に気が付いたんだから!! きっとアレだよ、『私』が休んだ日から丁度インフルか何かで学級閉鎖なって治ったと同時に解除されたんだよ!(んなアホな
これだけ見ると『私』がヤンデレに見えるでしょうが、実際霊さんの方がヤンデレです。救いの有りそうで無い話が書きたかったんです。
一応これには後日談があるのですがそれは脳内補完でお願いします。まぁ二人とも救われる……とは思っています。
今回リスカを書きましたが、実際リスカっていうのは死亡願望よりも自身の生を感じたいが為にやることの方が圧倒的に多いようです。あ、私はしたことないですよ。心配されそうなので、一応。
作品についてはこれくらいにして、今回編集を担当させて頂いたので部誌制作について幾つかお話を。
まず、部誌題名の『Danke』ですがこれは独語で『ありがとう』という意味だそうです。格好良いですよね、独語。冥府魔道のドイツですよ!というわけで今回の部誌は独語だらけです。皆さん頑張って読んで下さい。
で。困ったのは奥付。参考資料貰いましたがコレだけじゃ分かんねぇよ! とかグチグチ言いながらもっと参考資料探すために家中の同人本漁ったり とか結局一番好きな作家さんのを真似させて頂いたとかいうのはここだけの秘密です、はい。
ここまで読んで下さり有難う御座いました!
では、またお会い出来ることを願いつつお別れしたいと思います。
2009年2月8日 真ア 珠亜
※尚、この作品は加筆修正したもので本部誌と多少異なるところがあります。ご了承下さい。