学校の門をくぐり、下駄箱で靴を履き替えていると後ろから声をかけられた。
「あれ、今日は杏奈ちゃんといっしょじゃないの?」
「そうだよ」
「珍しいこともあるんだな」
そう言いながら割と仲の良い友人、武藤瑞樹は俺の横に靴を並べ履き替える。
「そういえば瑞樹、昨日杏奈に変なもん渡したんだって?」
「へ?」
「武藤君にもらったのって嬉しそうにふわふわしたもんつけてたぜ?」
「ああ、シュシュか。腕につけてたら杏奈ちゃんが可愛いって言ったからあげたんだ。
彼氏の許可なしにプレゼントなんてダメだったか?」
「彼氏じゃねぇっつーの」
にやにやと笑みを浮かべる瑞樹の肩に腕をまわし、頭をぐりぐりと擦る。
「からかっただけだよ、ごめんって」
瑞樹は肩にまわした腕を剥がそうと力を入れたが、腕は思ったより簡単に剥がれる。
「優…?」
「なぁ、俺らってそんなに恋人に見えるのか?」
思わずこんな言葉が口から零れた。何度も恋人と間違われたことがあったが、
いつもは否定するだけで終わる。だけど今日はなぜそう思われるのかも聞きたくなった。
考えなくても答えが出てくるのか瑞樹はすぐに質問に答えてきた。
「だって仲いいし、一緒に登校してたらな。幼馴染ってきかなきゃそう思うかも」
「そっか…」
確かに杏奈とは他の女子…いや、誰よりも仲が良いかもしれない。
ずっと傍にいたからなのか、杏奈の隣にいるといつも本当の自分でいられる気がする。
だから杏奈のそばは居心地がいいのかもしれない。
自分でも高校生にもなって幼馴染というだけで一緒に登校するのは可笑しいと思ったこともある。
杏奈の隣は落ち着くからと俺は杏奈に甘えていたのかもしれない。
急にそんな思いが湧き上がってきた。
杏奈は好きな男がいるのに俺は邪魔じゃないのか?
「俺ら恋人同士に見えるのか…」
杏奈の好きな人に誤解を与えているんじゃないだろうか。俺は恋の邪魔ものだ。
「優、立ち止まってどうしたんだ?早く教室にい…」
「わりっ、先いっててくれ」
そう言ってきょとんとした顔の割と仲の良い友人を見送った。