「先輩、そのリング・・・どうしたんですか」
助手席にはヘタ。いつもブチの運転を見ていたのであらかたの操作の仕方がわかるというからだ。そのおかげで何とか車を走らせることの出来たクロ。車の走行に慣れてきたころあいを見計らってヘタがクロに問うた。
「ああ、ブチが手にしていたんだ」
答えながらヘタにリングを渡すクロ。どうやら片手で操作できるほど余裕が出てきたらしい。それを受け取った途端ヘタの顔色が変わった。
「どうしたのヘタ君」
それに気が付いた吹が気にかけてくるがもはやヘタの耳には入ってこない。
心臓の音がいやに大きく聞こえる。うるさく感じる。口が思うように開かない。うまく言葉を喋れない。まるで話し方を忘れたように意味を成さない単語ばかり口から出てくる。
「ヘタ?」
「ヘタ君?」
「と・・・」
「と?」
「停めて・・・ください!」
それを聞いたクロはあわててブレーキを踏みハンドルを横に切った。初めて運転したとは思えないほど綺麗に止まった。その反動でヘタの手からリングが離れクロの足元に転がった。それをクロが拾いヘタに訊く。
「おい!どうしたヘタ!」
「そのリングを直ぐに捨てて下さい!早く!」
「訳がわからんぞ!理由を言え!」
「だからそれはさっき視た女性のものなんです!」
ブチはカエセ、としか聞こえていなかったが霊感の有るヘタにははっきりと聞こえていた。女性は足を返せといっていたのではなく、リングを返せといっていた。
「あの女性は!そのリングを返せって言っ・・・」
瞬間暗い車内に明るい光が差し込んだかと思うと次にはいろんな音が響いた。悲鳴を初め、何かが潰れる音、壊れる音、そしてカエセという声。