常陸

カエシテ

 あの日も今日のように蒸し暑かった。僕が通っている大学のサークル『心霊研究会』の活動で事故が頻繁に起こっているとあるトンネルに来ていた。活動内容はサークル名から察して欲しい。メンバーは僕と、一つ先輩が二人、二つ先輩が一人、唯一の後輩が一人の五人で形成されている。因みに僕は黒縁の眼鏡をかけていることから『ブチ』と呼ばれている。一つ上の先輩は男女で、男のほうが『チャラ』、女のほうが『吹』、後輩が『ヘタ』。センスを疑いたくなるような名前をつけたのは二つ上の先輩で名前の由来はチャラが今時の青年らしいから。吹は吹奏楽との掛け持ちから、ヘタはヘタレ。どうやら先輩には偏見があるらしい。そんな先輩の名前は『クロ』。髪が黒いから。僕だって黒いのだけれど早い者勝ちらしい。意味が解らない。このメンバーで唯一車の免許を持っていた僕は先輩命令で車を件のトンネルに向けて走らせていた。勿論このときは誰もあのような事になるとは毛頭思っていなかった。



 「トンネル、ですか」

 大学の夏の長期休暇が終わり、今年最後という心霊スポットに行こうというクロ先輩。他の先輩も乗り気で、僕とヘタだけが乗り気ではなかった。ヘタは霊感が多少あるらしく始終首を縦には振らなかった。僕は霊感を持っていないが、今回は本当に危ない気がした。僕の第六感が警鐘を鳴らしている。僕と後輩の不参加は多数決によって否定され、強制的にトンネルに向かうことになった。唯一車の免許を持っている僕が友人から車を借りて運転席に座る。今日ほど車の免許を恨んだ日はなかっただろう。



 山間を走り抜ける車には五人の男女。運転席には僕。助手席には霊感持ちの後輩、ヘタ。後部座席に無理矢理男の先輩、クロとチャラ、紅一点である女の先輩、吹が座っていた。

 「それで、そのトンネルは封鎖されたのですか」

「おう、一週間に十数名の死者を出すトンネルなんて使えるわけ無いからな」

クロ先輩はトンネルまでの道すがら件のトンネルのことを話してくれた。その話を聞いてそのようなありえない数値を出すトンネルには近づかないほうが良いのではないのかと思ったのは僕だけではないはずだ。その時のクロ先輩以外は皆顔面蒼白であったのだから。

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