「先輩、思い出しました」
「うん。カエシテ、だよね」
後輩の声で回想を終える。そういえば先ほど視た女性は足が・・・。
思わず口を手のひらで覆う。背には嫌な汗が流れた。
「先輩、顔色悪いですよ」
「・・・大丈夫。それで、その女性がどうかした」
「俺、前に言いましたよね。霊感が少しだけれどもあるって」
「うん、言っていたね」
「それで・・・、その・・・」
歯切れがおかしい。言いたいことをうまく言えないようで、しきりに目を泳がせている。
「・・・まさかその女性、幽霊・・・」
僕が言った途端目を見開く後輩。再び嫌な汗が背を伝う。その時、妙な風が吹いた。生暖かい、纏わりつくようで、息苦しい風。トンネルの中ではしゃいでいる先輩たちの声が妙に遠くから聞こえた。実際には数メートルしか離れてはいなかったというのに。それなのに周りに生い茂っている草木の揺れる音は耳元で鳴っているように鮮明で。僕たち二人はほぼ同時にスタートダッシュを切った。勿論向かう先はトンネル。早く先輩を連れ戻し帰らなくては。