常陸

カエシテ

「先輩!」

ほぼ同時に叫ぶ。

「おう、どうした青少年達」

相変わらず軽いのりのクロ先輩。おまけに片手を軽く挙げこちらを見向きもしない。

「先輩、直ぐ、戻りま、しょう・・・」

走った後で荒い息を整えながら話すので変わった単語が出来上がる。

「先輩!俺、視たんです!今回は本当に危険なんです!だから・・・」

「何、本当かそれ・・・」

この人は心霊の類を一切信じていない。心霊研究会に入ったのだってこの世に心霊は存在しない事を暴くためだといっていたっけ・・・。

こんな時に場違いな事を考えるのは現実逃避。僕には霊感はないはずなのに先ほどからずっと警鐘が鳴り響いている。危険だと、本能が一刻も早くこの場から立ち去れと叫んでいる。不意に吹いた先ほどの生ぬるい風。思わず目を瞑っていまい次に目を開けたとき視てしっまった。否、目を合わせてしまったといったほうが適切かもしれない。そのとき時間が止まったように思えた。そして僕は間抜けな悲鳴を上げて走り出していた。後輩や先輩の制止の声も聞かずにひたすら車煮に向かって走った。無我夢中で走っているのに頭の仲に疑問が生じた。車はこちら側に止めていないはずだという事に。けれど目の前に車はある。だから車を見た瞬間そんな疑問は消し飛んでいて車に乗ろうと足を踏み出したら車と地面が消えた。慌てて崖の淵に手をつこうとして手を伸ばすが悲しくも空を切り僕は闇の底に落ちていった。崖の上から声が聞こえた気がしたが今となってはどうでも良かった。下半身が異様に熱かった。そして今はただ、眠気が襲ってきているだけである。そして僕は眠気に勝つ事が出来ず意識を手放した。

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