「・・・着きました」
「ヘタ、何か視えるか」
ヘタは唇をわなわな震わせて何も言わなかった。多分何か視えていたのだろう。ふと何気なく下を見ると錆びれたリングが落ちていた。
「先輩、さっきの女の人、大丈夫だったのかしら」
話題を変えるように吹先輩が言うさっきの女の人。このトンネルの少し前にあった短いトンネルで事故を見た。その事故では車はトンネルの壁に衝突していた。男女の一人ずつだった。その女性は血塗れで、見るも無残な光景だったのを憶えている。
「大丈夫っ!男の人言ってたろ?救急車呼んだって!」
努めてあかるく言うようにしているのが丸解りのチャラ先輩。何せ先ほどの惨事を思い出したのか足が震えている。
「気は進みませんけど、早く調べて帰りませんか」
僕のこの声がきっかけに皆思い思いにトンネルに近づいていく。僕とヘタを除いて。
先輩たちがトンネルの闇に消え、カメラの光を放ち始めた頃になってようやく僕は足をとんネルに向けて歩み始めた。
「・・・ブチ、先輩」
数メートル後方から消え入りそうな声で声を掛けられた。勿論僕は足を止め回れ右をし視線を合わせる。
「ヘタ、どう・・・」
後輩を見て驚いた。ヘタの後ろに刹那の時ではあったがあの血塗れの女性が視えた。
「先輩」
「あ、うん。何」
「さっきの女性、何か言っていませんでしたか」
そう言われて先ほどの光景を思い出す。あの無残な光景を。