如月裕

ある詩集「Cross Word World」

『音のない森』

音のない森で 歌を求める少女が一人。
その手にはとある楽譜 名もない恋の歌、

過ぎてしまった日々の 温もりだけをまだ憶えている
歌を探すのは 今は逢えないあの人との
約束を果たすため

音のない森で 歌を求める少女が一人。
その手にはとある楽譜 名もない恋の歌、

森の向こうには あの人がいるとても遠くに
歌を見つけたなら きっと来てくれる信じている
ここから連れ出して…

老いることもできぬまま あの人のことだけを想う
少女は知らない……
少女にとって 世界は進みすぎたこと
少女は二度と 出られないこと
あの人はもう いないこと…は

音のない森に 命の(かげ)は二度と浮かばない。
細い白の上には 古い楽譜 優しい調べ
名もない恋の歌

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