真崎珠亜

進め!セイトカインジャー!!

「……んまぁともかく。と、言うわけでここに『キョウラン戦隊セイトカインジャー』を結成したいと思いまーす。皆の者拍手ーっ!」
 起きあがった初木は、何の前触れもなくそう言い放った。
「決定事項!? せめて僕達の意見聞けよ!!」
「はい却下ー」
「てめぇ……」
 即座に返されて、ぎり…と歯がみするコタロー。そんなコタローを全く無視して、高藤は
「初木、質問がある」
と、右手はきちんと作業をしつつひょいっと片手を挙げた。
「ん? 何のぶやん」
「『キョウラン』とは何だ? 『恐』れ、『乱』れるのか?」
「のぶやんそれ怖すぎーっ、んなわけ無いじゃん」
至極真面目に聞いた高藤に、初木はケラケラ笑いながら返した。返された高藤もそれ以外の『キョウラン』というと他にも一応あるがどれも不適切ではないか、と首を捻る。
「『キョウラン』は『教』えを『乱』すで、『教乱』」
 にやりと笑って、初木はそう言った。
「仮にも僕ら生徒会ぃぃぃぃぃぃっ!!」
そんな初木の不真面目極まりない回答に、叫ぶようにコタローは裏拳付きでツッこんだ。そして更に続ける。
「生徒会が教えを乱してどうするんですか! しかもアンタは仮にも生徒会長でしょ!? つか何でそんなに戦隊ものにこだわるんですか!」
バンッ、とコタローは机を叩いて捲し立てるように言った。そんなコタローに初木は唇を尖らせて
「だってカッケーじゃん戦隊ものー。コタローちゃんだって『交流戦隊シュウレンジャー』とか『誤正戦隊タイレンジャー』とか観てたでしょー?」
と、文句を垂れた。
「……あの…明らかに僕が小さい頃に観ていたもの違うんですがっつーか何だその版権ギリギリなパチもん臭い番組は」
 ひくひくと青筋を立てながら、引きつった笑みでコタローは初木の質問に答えた。そんなコタローの様子に初木は驚いたように叫ぶ。
「え、嘘マジ!? コタローちゃん知らないの? じゃああれはっ、感動の超大作『禁術戦隊ガクレンジャー』は!?」
「知らねぇよそんなの!!」
「…というか『忍●戦隊カクレ●ジャー』では…? ……なんだこのモザイクは」
信弥、それ著作権引っかかるから駄目。
「そ、そうか…」
「うっそー! のぶやんも知らないの!? 何で!?」
 驚きに声をあげて、初木はガタガタと立ち上がり近くにあったホワイトボードに
『超ウルトラヒーロータイム(略してCUHT)!』
と、でかでかと書き出した。
「皆の者これを知らんのかね!?」
ばしりと勢い良くホワイトボードを叩いて、初木は言う。しかし皆々反応は薄く、寧ろ何だよそれこっちが聞きたいわ、という感じだった。
「会長、一つお聞きしますが」
 ふと、今まで熱心に作業をしていた小川が画面から目を離して手を挙げた。
「何? 佐保ちゃん」
「それはいつ、どこで放送されているのですか?」
「毎週日曜、26時から一時間。テレビ黄昏にて」
「どこの放送局!? つーか26時ってもう月曜日じゃないですか!」
何の迷いもなくおかしな発言をサラリとした初木に、すっかりツッこみ担当と化してしまったコタローが間髪入れずにツッこむ。
「みんなテレ黄知らないの!? デジタル6・5ch、アナログ31chだよ!?」
「知るかぁっ!」
 半狂乱の如しツッこみを続けるコタロー。このままではちゃぶ台返しを生徒用の机でやりかねない感じになっている。そんなコタローの隣で、作業する手を休めずに画面を見続けたまま高藤は尋ねた。
「……因みにどうやって6・5chなんて観るんだ?」
「リモコンの6番と7番をコンマ単位の狂いも無く同時に押して、ナノ単位ほどの寸分の狂いも無く同じように半分だけ押す」
「無理だろそんなの!」
「いや、俺実際出来てるし」
「アンタはどこのビックリ人間だ!!」
「最近はこの間『祝言戦隊ケーキレンジャー』が感動のラストを迎えて、この春から『遠心戦隊コウオンジャー』が始まったんだけどこれもなかなかクオリティ高くて」
「な ん の 話 だ」
 人のツッこみを全く無視してうんうんと頷く初木に、もうすぐツッこみ疲れのピークが来そうなコタローは、ぜぇぜぇと肩で息をしながらそれでも必死に役目を果たそうとツッこむ。
「役目を果たそうとしてるわけじゃない…」
コタロー、疲れてるんならもう止めなよ…。
「う、るさい……」
 しかし、そんなコタローの必死のツッこみをあっさりスルーして、初木は更に語る。
「こないだのライダーも良かったなぁ…。最後はもう涙無しでは観られないっつーか…」
「ライダーって…●面ラ●ダーですか? ……って、またモザイクが…」
 ぐっと拳を握って熱く語る初木に、珍しくコタローがツッこみ以外の言葉を返した。そんなコタローに初木は首を横に振って答える。
「ううん。そんなバッタ人間の話じゃなくて俺が言ってんのは『めんライダー』。どのシリーズも八十過ぎの爺ちゃんが主人公なの。で、ナナハン(750cc)のバイクを乗り回すの」
「殺す気か!?」
「そう、こないだのは『止めんライダー天追う』…。天駆ける未知なる電車に乗って、記憶喪失の爺ちゃんが電車にいる変な生き物たちと交流を深めながら、自分の記憶を探して色んな次元を旅するんだよ」
「はぁ……」
 だからなんだってんだよ。と、言外に付きそうな溜息にも似た言葉を吐くコタロー。もう大分ツッこむことを放棄しようかと考え始めている。

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