「じゃあブルーはのぶやんよねー。クールな二枚目って言ったらもう決まりじゃない」
「だよなーっ。のぶやんはやっぱブルーだよな! 『知性の青きい』あだっ!?」
「いい加減にしろ!!」
先ほど付けられた高藤の傷口を更に抉ろうとした初木に、高藤はその辺にあったマーカーを投げつけた。それはかなりの勢いで見事初木の額に当たり、初木は派手にぶっ倒された。
「痛ててて…。もーっ、何すんだよのぶやん!」
「何か言ったか…?」
「いえごめんなさい…」
ゴゴゴゴゴ、という写植がバックに流れてそうな感じの高藤に、初木は少し青ざめて高藤と目を合わさないようにして謝った。今の高藤は初木から見て、捕食者の目をしていた。
「……高藤先輩はブルーじゃない気がします」
と、小さく零したのは会話に参加していなさそうだった小川だった。
「じゃあ佐保ちゃんは何色だと思うの?」
初木がそう問いかけると、小川はキーボードを打つ手をふと止めて、数秒黙り込んだ後に
「……………濃紺」
小さく、そう呟いた。
「…ネイビーブルーってことぉ?」
「いいえ、濃紺です。高藤先輩にはカタカナは似合わないような気がするんです」
きょとんと聞いた海那にそう答える和風少女小川。
「確かにのぶやんはカタカナ似合わねぇな。…よし、んじゃ濃紺で」
「ブルーより…濃紺、ですよね…」
何故かこの意見には全くツッこみを入れずに、コタローは同意までした。日本男児の鑑のような高藤にはカタカナ語は似つかわしくないらしい。
「…………………おかしくないか?」
周りが勝手に盛り上がってる中、しばらく黙っていた高藤は小さくそう零したが、誰の耳にも入ってはくれなかった…。
「じゃあレミはやっぱりピンクだよね〜☆」
「腹ん中真っ黒な人間が何言ってやがっ!?」
「じゃあピンクけって〜いっ♪」
途中ぼそりと呟いた初木を笑顔のまま拳で沈めて、海那はキャッキャと可愛らしくはしゃぐようにそう言った。当たり前だが反論・ツッこみをする愚者はどこにもいない。
「ま…待て麗美。ピンクはコタローじゃないと駄目だ……」
「え〜っ、何でよ智人ぉ」「ちょっ、何でですか会長!?」
勝手に決定しようとした海那に、息も絶え絶えな初木がそう言って止めた。止められた海那からは不満の声が、話題に出されたコタローからはツッこみの声が同時にあげられる。静かにしている高藤や小川も、不思議そうな顔をして初木の方を眺めた。
そんな全員の前で、痛みから立ち直った初木はまぁまぁと両手を出して宥めてから
「だって花子太郎だろ?」
と、しれっとそう言った。
「僕は浅花、子太郎だっ!!」
そんな初木に思いっ切りツッこみ返すコタロー。そう、彼の本名は作者が変えるのがメンドイので読者の皆様が混乱すると思うので、彼の表記はコタローのままでいく。
「あぁ…成程ねぇ」
「そこ納得するな!! もうっ、ピンクは海那先輩で文句ありません意見もありませんだから僕の名前を弄るのは止めろぉっ!!」
一気に捲し立ててコタローはそう叫んだ。彼は幼い頃よりこの『花子太郎』という名前で虐められた痛くて苦い記憶があるので、名前で遊ばれることを最も嫌っているのである。
「じゃあ次。佐保ちゃんは何色が良い?」
「…私、ですか?」
不意に話題を振られて、小川は驚いたように初木の方を向いた。目立たない自分の話題になるのは一番最後だと思っていたからである。
「そ。何でも良いから好きな色言ってみ?」
「好きな色……」
と、口元に手を当ててしばらく考えた後にふと顔を上げて
「黒橡」
綺麗に微笑んでそう言った。
「ゴメン俺その色分かんないし読めない……」
「そう…ですか。『くろつるばみ』といって、そうですね…微妙に柔らかい感じの黒色です」
げんなり、という感じで返した初木にニコリと柔らかい笑みを浮かべたままそう答える小川。黒橡は古典辞典に載っていると思うので気になる人は調べてみよう。
「そもそも佐保ちゃん女の子なんだから黒は止めようよ、黒は」
「では
「何それジムの名前?」
「はい?」
和風な名称ばかり出されて、初木は混乱した挙げ句におかしなことを口走った。Pケモンなんて全く知らない小川は、そんな発言にきょとんと首を傾げるしかない。
「…紫苑は紫、常磐は緑、縹は水色だ。それぐらい知っていろ馬鹿者。そしてシオンにジムは無い」
「…先輩ゲームも詳しいんですね」
「……昔の話だ」
そんな二人の様子に、見かねた高藤が呆れたように解説した。そんな懐かしいことを未だに覚えている高藤に、少しだけ記憶があったコタローが驚いたように声を掛ける。因みに他にも鈍(にび)やら玉虫(たまむし)やら石竹(せきちく)やらがあったはずなのだが読者の皆様はどれほど覚えているだろうか。
「マジで? シオンにジム無かったっけ。……と、それよりも佐保ちゃんだった。んじゃあここはノーマルに緑にするか。女の子でも緑色はいたし、グリーンってことで」
「常磐じゃ駄目なのですか…?」
勝手に解決しようとした初木に、小川は少し寂しそうな声で問いかけた。その目は哀しげに揺れていて、儚い美少女感を醸し出している。そんな顔をされては否定出来るわけもなく
「んじゃ、常磐で」
あっさりと折れて、決定してしまった。
「ありがとうございます」
そう言った小川の顔が可愛かったので、別に良いか。と初木はだらしなく思った。そもそも高藤も濃紺なのだから今更和名が来たってどうってことはない。