真崎珠亜

進め!セイトカインジャー!!

「じゃあ次はコタローちゃんね。何色が良いの〜?」
「僕はそんな恥ずかしいことはやりませんよ!? 只の通行人Aとかにしといて下さい!」
 後ろから海那に抱きつかれながらそう言われて、真っ赤な顔をして身を捩りながら怒ったようにそう叫ぶコタロー。まだまだウブなのである。
「大丈夫! コタローのポジションは既に決めてある!」
「なっ! 何勝手に決めてるんですかこのバ会長!!」
親指をぐっと前に突き出して自信満々にそう言った初木にコタローは、海那に机に押さえつけられながらも暴言を吐く。
「君は今日からカレー大好きイエローだっ☆」
親指を突き出したまま、バチコーンッ☆ とウインクして初木はそう言った。
「カレー大好き初期設定!?」
「一にカレー二にカレー三四が無くて五にカレー」
「そこまで!?」
「花より団子よりカレーが好きな困ったさんで、口癖は『カレーが切れた…。鬱だ。良し、死のう』」
「そんなヒーローいるかぁっ!!」
馬鹿なことしか言わない口を剥ぎ取ってやろうかと思いつつも、実際は海那に潰されているので出来ずに、苦しい体勢の中でぎゃんぎゃんと噛みつくように叫ぶ。大分頭が痛くなってきた。
「あのなぁコタロー。カレーはイエローにとってロマンの塊なんだぞ? カレーの海の中で死にたいっていうイエローが続出しているほどの事態なんだぞ?」
「どこの惑星の話ですか!」
「よし、麗美黙らせろ」
「はいは〜い♥」
「はがっ!?」
「インセクター?」
「……またお前は分かりにくいボケを…」
 するりと首に回された腕にときめく間もなくぐきりと回転させられて、哀れな悲鳴をあげて昇天してしまったコタロー。煌めく輪を頭に付けた魂がふよふよと口から吐き出されるのがハッキリと見えた。そんな彼に、小川と高藤は静かに合掌する。
「よしっ! これでセイトカインジャー完成だな!」
「…成海先輩はどうするんですか? 彼も一応生徒会の上に立つ者としてどこかに入るべきでは?」
 ぱちんと手を打って言った初木に、静かに意見したのは小川だ。
「ミッチー? んじゃあイメージ的に黒だからブラックで」
「あんな奴は消し炭色で十分だ」
「うわぁのぶやん毒舌ー。じゃあブラックで敵のボス役っていうのは? 何か凄ぇ革新的じゃね!?」
「確かにアレはどちらかというと正義の味方より悪の親玉っぽいからな。それで良いだろう」
「やべぇすっげー壮大なスケールの話になりそう!」
 ツッこみ役の居ない今では誰も彼らの暴走を止めようとはしてくれず、どんどん話は勝手に進んで行ってしまっていた。小川は真面目に作業中で二人の暴走を聞いてはいるが止める気は無いし、海那は倒れたコタローで遊んでいて、二人の会話なんて聞いてすらいなかった。
「…というか、俺達の敵って誰なんだ?」
 ふわり。先ほど飛んで行った魂がコタローの口に入り込む。
「そりゃあ勿論、あれしかないっしょ」
 ぱちり。今まで白かった瞳に黒い光が宿る。
「あれ、とは?」
 むくり。今まで机に突っ伏していた体を起こす。
「P・T・A」
 にやり。と笑って初木はそう言った。
「阿呆かアンタはぁ―――――――っ!!」
「おがっ!?」
 浅花子太郎、完全復活☆
そして勢い良くそう叫んで、馬鹿すぎる生徒会長に恨みと怒りを込めて思い切り、近くにあったサイド黒板の黒板消しを投げつけた。
「ちょっ、コタローちゃん煙い! 煙いってコレ!!」
「うるさい黙れ!! つか何でPTAが生徒の敵なんですか! PTAはどう考えたって僕達の味方でしょう!?」
 チョークの粉が顔の周りを舞って、ごほごほと咳き込みながら言った初木をバッサリと斬り捨てるように言ってから、コタローは更にツッこんでいた。
「そもそもPTAって何の略なのぉ? 智人教えて」
「え」
 こてんと可愛らしく首を傾げて不意に言った海那の台詞に、初木は固まった。少しこめかみ辺りから冷や汗のようなものが流れている。
「え――――っと……『Perfectibility Thuggery Achieve』…?」
そして数秒悩んだ後に、語尾に疑問符を付けてそう言った。
「…阿呆か貴様は。適当に知っている単語を並べてだけではないか」
 腕を組んでむっつりとした顔で高藤が溜息と共にツッこむ。
「え〜っ?じゃあなんて言ったのぉ?」
「さっき初木が言ったのは直訳すると『完全な殺人を達成する』、となる。PTAはどこの殺人集団だと言うんだお前は……。因みに、本来は『Parent-Teacher Association』といって、『保護者と教師の組合』という意味だ。知らなかった奴は良く覚えておけ」
「うへ〜い」
「やる気の無い返事だな……」
 高藤のちょっとだけタメになる話に、不得意科目が英語な初木は嫌そうな返事を返した。つくづく子供っぽい男である。

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}