真崎珠亜

進め!セイトカインジャー!!

「で、結局智人は何が言いたかったわけぇ? レミぜーんぜん意味分かんないんだけどぉ」
 今までの初木とコタローの漫才のようなやりとりを黙って聞いていた海那が急に口を挟んできた。彼女は他二名と違って、すっかり手を休めて爪の手入れをしている。
「あ、そうそうそれでさぁ結成するにあたってみんな何色が良いかなぁって」
「結成決定!? そしてメンバーは僕ら!?」
「当ったり前じゃん。『セイトカインジャー』なんだし」
 さぞ当然のように言った初木にコタローは衝撃の事実を突き付けられたかのように驚いて
「高藤先輩も何か言ってやって下さい! この人僕が何言っても聞きやしませんよ!!」
と、真面目に作業を進める高藤に助けを求めた。
 呼ばれた高藤はふとキーボードを叩く手を止めて、ゆっくりと初木の方を向き、一つ深呼吸をして
「だが、生徒会は全員で23人いるぞ? そんなに多い戦隊はおかしくないか?」
至極真面目な顔で、そう言った。
「って、貴方もそんな顔してノリ気なんですかぁっ!?」
助けを求めた高藤にあっさりと裏切られ、コタローは泣きたい気分で叫んだ。高藤は確かに真面目な生徒なのだが、子供の頃の影響で人並みには戦隊ものという物が好きなのである。
「えぇ〜っ、下っ端の方は全身タイツ着せて奇声あげさせとくとか、俺達の後ろに金魚の糞の如くくっつけさせて『そこにシビれる!あこがれるゥ!』とか『貧弱!貧弱ゥ!』とか言わせときゃ良くね?」
「…それではどう考えてもこちらが悪者ではないか。そして二番目の台詞は下っ端ではなく大ボスの台詞だ」
「……意外と漫画詳しいんですね先輩……」
 初木のアホすぎる意見に冷静にツッこみを入れる高藤に、一人決して作業の手を休めない小川が呆れたような驚いたようなツッこみを小さくした。
「だって23色の戦隊なんて嫌じゃん。絶対最後ら辺微妙な色になってるって。モスグリーンとかレモンイエローとかさ」
「うわ確かにそれ微妙〜」
「バイオレットとかな」
「のぶやんそれ喧嘩売ってんの?」
「何にだ?」
「シゲキ使いに」
「……意味分かんないんですけど」
 訳の分からないことを話し出した初木に、呆れた声でツッこむコタロー。もう彼もツッこむことが忙しくて作業どころでは無くなってしまっていた。そしてそんなツッこみ役である彼の味方は誰も居ないことをようやく悟り、半ば自虐的な気持ちで話し合いに参加することにした。
「…じゃあ初木先輩はやっぱり会長だしリーダーだからレッドですか?」
「え〜っ、レッド格好悪いからやだ〜。情熱の赤とかダサくね? 同じ情熱の赤ならレッドよりルージュの方が格好良くね?」
「美少女戦士かお前は」
 ブーブーと言うように文句を垂れたうえに、訳の分からないことを言い出した初木に高藤は相変わらず冷静にツッこむ。しかし内容が分かる人にしか分からないような内容なので、幼い妹がその番組を見ていてそのツッこみの意味を理解出来てしまった小川は
「……高藤先輩、日曜日の八時半にテレビ朝●観てるんですね…?」
と、哀しそうに言って、引いた目で高藤を眺めた。
「違う! 五歳の従妹に教えられたんだ!!」
「そう…ですか…」
「だからそんな哀れむような目で俺を見るな小川!!」
 高藤の必死の弁解も虚しく、小川は「はぁ…」と大きな溜息を一つ吐いてまた何事も無かったかのようにパソコンに向かい始めた。その目にはうっすらと透明な液体が溜まっていた…。
「…一体、何の話だったんですか?」
「今の俺に聞くな……」
 今までの流れが全く理解出来なかったコタローが隣に居た高藤に疑問を投げかけたが、高藤は真っ暗な顔をしてとても低い声音でそう言ったきり黙り込んでしまった。高藤はちょっと泣きたい気分だった。
「そんなことはどうでも良いんだけどぉ、結局智人は何色が良いわけ? ブルーとか?」
 と、一連の流れをバッサリと斬り捨てたのは海那で、そんな海那の疑問を受け取った初木は言った。
「ブルーは俺よりのぶやんでしょー。俺はシルバーが良い」
「会長なのに!?」
何ともマニアックな色を選んだ初木にコタローはコンマで返した。彼は高校に入学し、この生徒会に入ってからずっとツッこみのスキルが上昇しっぱなしだった。
「良いじゃんシルバー。一番格好いいと思うんだよ『白銀しろがねの戦士』! ほらメッチャ格好良くね?!」
「リーダーの色じゃないと思いますけどねー…」
 嬉しそうに瞳を輝かせてそう言う初木にコタローはもう何と言って良いか分からず、はははと虚しい笑いと共に哀しいツッこみを返した。

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