正松

短編詩集『夢と毒と未来』

「僕らの街で」

くらげの様に陽の光が揺れる
世界が産声を上げたみたいだった
足取りすらおぼつかない
朝起きた僕はいつもそうなるんだよ

汚れたその精神を洗い流そうとしている
ベランダを突き抜ける春の混じった北風

少し息苦しいけど
僕はこの場所が好きだよ
雪解けの始まりはまだ遠いけれど
鳥になって飛びたいとか
ありふれた想像を空に浮かべては
顔を上げ 僕は歩いていく
いつか思い出になる街で

完全だと思われていた世界は
午後の無情に呑み込まれて
部屋の隅っこで静かに泣き出した
それでも雲はとめどなく流れ出していく



惰性で濁った脳を洗い流そうとしている
ベランダを突き抜ける春の混じった北風

君のその一言だけで
全てが変わる気がしたんだよ
雪解けの始まりはまだ遠いけれど
別れの時が訪れても
涙は決して流さないと強がりを謳いながら
僕は歩いていく
いつか記憶に埋もれるこの街で

今日もどこかで
新しい世界が生まれている

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