正松

短編詩集『夢と毒と未来』

「夜のとばり」

石畳を眠らせた雪の上に
何も知らない灰色の鳩が
小さく 点々と
足跡を残していく
錆びて凍りついたメリーゴーラウンドの
つくりものの白馬の鞍上を
淡い粉雪が
小さく 点々と
白に染めていく

闇に優しくつつまれて
街灯は時間を取り戻した
やがて僕らはまどろんで
猫は高架下 影の中
さよなら さよならと
街を駆けていく
降り積もった雪の上を
駆けていく

沈黙がどれほど深くても 朝が来れば
街灯は時間を奪われて
僕らは目を覚ますのだろう

闇に優しくつつまれて
街灯は時間を取り戻した
やがて僕らはまどろんで
猫は高架下 影の中
さよなら さよならと
街を駆けていく
降り積もった雪の上を
駆けていく

針が折れて捨てられた柱時計の
煤けてしまった金色の振り子を
淡い粉雪が
小さく 点々と
白に染めていく

闇に優しくつつまれて
街灯は時間を取り戻した
やがて僕らはまどろんで
猫は高架下 影の中
さよなら さよならと
街を駆けていく
降り続ける雪の中を
駆けていく


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