正松

短編詩集『夢と毒と未来』

「あめだまの思い出」

夕焼け小焼け
自転車で駆けながら眺めた
林の中に秘密の居場所
セピア色に色褪せて そのまま
どこからか 干草の匂い

忘れられたかかしの
古ぼけた口笛が
教えてくれたのかもしれない
稲穂の波が
どこまで どこまで
続くのかを

遠くへ行ってしまった友達が
まだ僕の隣で笑っていた頃
いつも どんなときでも
ぶりきのロボットを抱えていた頃
夏のおわりを悲しむなんて
僕にはできなかったのだろう
今になって思い出した

今になって やっと

いつからだろう
いつのまにか鉄の街を目指していて
茜色の光景を
ふきげんな雲に売ってしまったんだろうか?
泣くことができたことにも
涙を流せなくなっていて・・・・・

すぐに行くから
ちょっとだけ待っていて
くすんだ緑色のアルバムの中で
もう少しだけ眠らせて
他愛のない夢が見たいんだ
のらねこにそう告げて
夕焼け色に輝いたカーテンの下
僕は
幸せそうに 溺れていた

今になって やっと

http://bungeiclub.nomaki.jp/
design by {neut}