真�ｱ珠亜

赤色の幻想

「でもあれって『さくせん』のコマンド内にあるじゃない」

すずねは９９９９９のダメージをうけた！
すずねはたおれた……。
『へんじがない　ただのしかばねのようだ』

……なんでエニックス(現在はスクウェアエニックスだが)はそんな特攻作戦をコマンドになんて入れてしまったのか、鈴嶺はここでお門違いではあるが、主人公を少し恨んだ。
　ここで負けてはならない、諦めさせるために鈴嶺は続ける。
「……香月は俺がそいつのこと嫌いだって知ってるだろ？」
「うん知ってるよ。でも鈴嶺のそれってアレでしょ、前にテレビでやってた口では嫌いだ嫌いだって言っときながら本当は大好きな『嫌よ嫌よも好きのうち』みたいなやつ。えーっと……そうっ、『ツンデレ』！　鈴嶺のそれはツンデレ的愛情なんだって！」
　……それはない。絶対無い。
鈴嶺の恐怖症は『ツンデレ的愛情』の一言で流されてしまった。本気でそう思っているのなら相当の鈍感である。
　楽しそうに話す香月の後ろ側で紗月が「ぷくくくく」と笑っているが、こっちは笑う気にもならない。誰かあの男をぎゃふん（死語）と言わせてはくれないものだろうか。と、鈴嶺は震える拳を握り締めながら思った。
香月もそもそも恐怖症だと知っておきながら、強制参加させるというその鬼っぷりはどうなんだろう。
　確かに鈴嶺がまだ恐怖症になる前は「サンタさんの姿を見るんだ！」とか言って２人で夜遅くまで起きようとして失敗したことならある。しかしそれは誰もが子供の頃にやったことがあるだろう。「いつか２人でサンタさんを捕まえようね」とか言った覚えも無くはないが、現在２人とも16である。去年は流石に最後だろうと思って付き合ったがまさか今年もあったとは。
　ここで鈴嶺は意を決して、最後の切り札を出した。今までは香月の気持ちを尊重して敢えてずっと言わないようにしていたが、流石にもう限界である。
「つーかさ、なんで高１になってまでそんなことしなきゃならないんだ？　実際そんなものいないだろ。正体は家族だって、今時の幼稚園児だって知ってるのに」
「……何言ってるの？　サンタはいるに決まってるじゃない」
即答で返された。しかも冗談で言っているわけではない、その目は本気だった。
「いると、思ってんの？」
まさか、まさか高１になってまでそんな馬鹿げたことを信じているわけはないと思うが。
「いるわよ。どっか北の方の寒い国に」
「マジで言ってる？」
「マジで言ってる」
　ずどん。と何か鉄の塊のような物が鈴嶺の頭上に落ちて来たような気がした。それほどまでに頭が痛い。
確かに香月は昔から少し夢見がちな女の子だったような気はするが、少しだと思っていた。中学の同じクラスにいた漫画のキャラと本気で結婚しようとしていた女子よりは大丈夫だと思っていたのに、ある意味ではそれ以上に危ない。
「依月」
「何？」
　この緊急事態に一人で対処するには荷が重すぎたので、一番の常識人の依月に助けを求めた。流石に家族にいないといわれれば、香月も諦めてくれると思ったのだ。
「依月はサンタっていると思う？」
依月はほんの数秒考えて、
「……信じている人にとってはいるし、信じない人にとってはいないと思う」
というなんとも曖昧で微妙な返答をしてきたのだった。
「……そうか。じゃ、じゃあ紗月さんは？」
何となく返事は分かっているが、一縷の望みに縋って紗月に尋ねてみた。
「僕はいると思うよー。その方が面白いし」
素敵不思議不敵な笑みでそう言われて、鈴嶺はやっぱりかとがっくり項垂れた。
「ほら、やっぱりいるのよ！　それにサンタが家族なわけ無いじゃない。絶対そんなのあり得ない！」
「何でだよ」
「それは……、そんなことどうだっていいじゃない！　じゃあまだ捜すとこ決まってないけど、絶対ロープと手錠(おもちゃ)は用意しておきなさいよ。良いわねっ！」
　何故だか怒ったように一気に捲し立てられる。何を怒ったのか鈴嶺には分からなかったが、最初に一瞬だけ困ったような、悲しいような寂しいような、はたまた切ないような、何とも形容しがたい表情をしたのが見えた。
……それは、鈴嶺が初めて見た顔だった。
「はいっ、作戦会議終了！　決行は24日の夜、11時から12時にかけて。それじゃ24日の10時には来なさいよ、以上っ、解散！　……というわけでアンタは家に帰るっ！」
「わ、分かったから押すなよ！　依月、紗月さん、おじゃましましたっ！」
「じゃーねー。何かお裾分け有ったら遠慮なく持ってきて良いからねー」
「……ばいばい」

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