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初めて見たのは９年ほど前だろうか。いきなり真夜中にぱたぱたという足音が聞こえたかと思うと、そのまま外に飛び出していってしまったのだ。
嫌な予感がして隣を見ると、先ほどまでくぅくぅ寝ていた香月の姿が消えている。
心配になった紗月は寝入っていた依月を背負って、その後を追ったのである。
外に出ると、妹が隣の家の子供を無理矢理引っ張り出しているのが見えた。その子の手には子供の縄跳びのような透明なロープと、多分おもちゃであろう手錠が握られていた。
一体こんな時間に何をするのだろうと、心配半分興味半分で見ていたのだが、あの歳で駆け落ちか、とも思ったが男の子の方が嫌がっているし、あの二人はそんな関係ではないはずなのでその考えは破棄された。
しかも持っている物が『ロープ』と『手錠』なら寧ろ本当に何をするもんなのか分かったもんじゃない。
もしやテレビで余計なことを覚えてしまったのか、電波のくせに可愛い妹になんて事教えてやがる。と、悪態を吐いていると急に子供達が走り出した。子供達、と言うよりは妹が無理矢理少年を引っ張って駆け出したのだ。
慌てて付いて行くと、彼女らは一心不乱に何かを捜しているらしく、あっちへ行ったりこっちへ行ったりとせわしなく動いていた。
紗月は物陰からじっとその様子を見ていたのだが、このときの様子をもし誰かに見られていたのなら通報されていただろう。何せ真夜中に、まだ年端もいかない子供達を物陰からじっと凝視している変な和服のお兄さんだったからだ。
背負ってる依月のことなど、どこから奪ってきた娘だ。などと言われかねなかっただろう。
まぁ結局、時間も時間だったので誰かに目撃されることは無かったのだが。
それから数十分も同じようにあっちに行ったりこっちに行ったりしていたが、やがて諦めたのかがっくりと肩を落として家の方向に向かってきたのである。紗月は先に戻っていなければならなかったので早めに家に帰って寝たふりをしていた。
すると静かにドアが開き、とぼとぼとした足取りで香月が入ってきた。そしてそのまま紗月の横に静かに滑り込むと、俯いて泣き出したのである。
紗月は驚いて香月に声を掛けた。
「どうしたの、香月？ どこか痛いの？」
紗月が起きてることに驚いたのか、香月はビクッとし、そろそろと顔を上げた。その目からは大粒の涙が次から次へと溢れ出していた。
「どこか痛いの？ おなか？ それとも頭？」
こんな寒い中走り回っていたのである、どこかを悪くしていてもおかしくはない。
すると香月はふるふると頭を振り、嗚咽を零しながら話しかけてきた。
「おにっ、いちゃん」
「なぁに？ 香月」
「サンタっ、さん、はいるん、じゃな、いの？」
この寒い中この子達はサンタを捜していたのか、と紗月は驚いた。別にサンタは信じても良いが流石に探しに行くほどの行動を起こすとは思っても見なかったのである。
確かによく考えなくともイヴの夜中に子供が捜すモノといえばそれくらいしかないだろうが。
「……大丈夫。サンタさんはちゃんといるよ」
「……でも、みづかっ、んなかった」
「それはちょっとタイミングが悪かったんだよ。それにサンタさんは恥ずかしがり屋さんだからね、見つからないように隠れちゃったのかも」
鈴嶺に対して、妹にはとことん優しい紗月である。
「ほんとっ、にサンタさん、いる？」
「いるよ。だって毎年プレゼントを持ってきてくれているじゃないか」
「……違うもん」
ぽつりと香月は言った。
「だって、サンタさんはっ、かづきが一番欲しいものくれなかったもん！」
「香月……」
紗月は香月が一番望んでいるものを知っていた。だからといってそれをサンタクロースに頼んでも持ってきてくれるわけがないことも知っていた。
そして香月は火のついたように泣きながら言う。
「かづきいっつもサンタさんにお願いしてるんだよ！ 『かづきが一番欲しいのは―――――』」