真�ｱ珠亜

赤色の幻想

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　§・§・§

『さっ、サンタさんがひとごろしなんてするわけないじゃん！　ぼくを怖がらそうたってそうはいかないんだからねっ！』
『じゃあすずねちゃんは、どうしてサンタさんがすずねちゃん達が欲しがっている物を持っているか分かる？　ポケモンなんてサンタさんの国には無いんだよ？』
『うぅー……。そ、それはサンタさんだから……』
『んー、答えになって無いなぁ。実はね、サンタさんは良い子じゃない子供達を殺して、君たちにあげるためのプレゼントを奪ってきているんだ。ほら、サンタさんは良い子にしているとプレゼントをくれるって言うでしょ？』
『う…、うん』
びくびくと青ざめた顔で答える頷く鈴嶺を見ながら、紗月はさらに「それにさ……」と続ける。
『サンタさんってさ、真っ白くて大きな袋を背負ってるだろう？　あの中に何が入ってるか、すずねちゃんは知ってる？』
『あの中にはプレゼントが入っているんでしょう？おかあさんがこないだ教えてくれたよ』
『……違うんだなぁ、これが。そしたらサンタさんの乗ってくるソリの上にプレゼントの箱をあんなにいっぱい置いておく必要はないだろう？』
　ここで鈴嶺は母に読んでもらった絵本を思い出す。確かに、サンタの乗っているソリの上にはたくさんのプレゼントの箱が乗っかっていた。
『そうだけど……』
ここで紗月は一端辺りを窺ってから内緒話をするように、言葉に詰まる鈴嶺の隣にかがみ込む。
『……実はここだけの話なんだけど、あの袋の中には殺された子供達が入っているんだ』
『えっ！』
『しっ！　声が大きい』
『ご、ごめんなさい……』
『本当のサンタさんの服はおひげと同じで真っ白なんだよ。それが、最初の子供を殺して返り血を浴びちゃうと斑模様になって気味が悪くなってしまうんだ。血の付いたサンタさんなんて家に来て欲しくないでしょ？』
『う、うん……』
『だから、サンタさんは悪い子を殺して殺して自分の服を真っ赤にするんだ。おひげのは洗えば落ちるけど、服に付いたものはなかなか落ちにくいからね』
　それでは結局のところ同じではないか、と普通思うのだが幼い鈴嶺はそこまで頭が回らなかったのである。
『これはお父さんにもお母さんにも、お友達にも、もちろん香月やいーちゃんにも言っちゃダメだよ。これはサンタさんにとって凄く重大な秘密なんだ。もしも約束を破って誰かに話しちゃったらその時は……』
穏やかだった紗月の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。
『分かった！　誰にも言わないよ！　約束する!!』
『ん。すずねちゃんは良い子だね。きっとサンタさんがプレゼントを持ってやって来てくれるよ。……真っ赤な格好でね』
『！』
　それ以来、鈴嶺はサンタが怖くなった。まだ子供の鈴嶺はサンタを見ると泣き出してしまうほどで、母親に「この間まですっごく楽しみにしていたのにどうしたのかしら……」と、心配を掛けるほどだった。
　そして10年経った今でも、泣き出すことはもうしないが彼の中でその思いは息づいている。
あの後、鈴嶺は何故紗月がそんな秘密を知っているのかこっそり聞いてみたが
「サンタさんの袋に入りたくなかったら、そういうことは訊かない方が良いんだよ」
と、真っ黒い笑顔で言われ、もう二度と聞かないことに決めたのである。

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