札幌北陵高校文芸部

赤色の幻想

　紗月の時計はもうすぐ12時を回ろうとしていた。隣では既に依月が夢の中へ落ちていた。
体を冷やしてはいけないので自分の着ているジャケットをそっと掛けてやる。
「……おにい、ちゃん……」
　夢の中にいるであろう依月が寝言だが、いつの間にやらしなくなってしまった呼び方で紗月を呼んだので驚いた。
いつも鳥の雛のように紗月の後ろ姿を追ってきていた依月を思い出し、ふっと微笑む。
この子は、相変わらずちゃんと自分の背中を追ってきているらしい。
「……いつか、追い越されてしまうのかなぁ……」
隣でくぅくぅと寝息を立てる妹を見ながらそんなことを想った。彼女の才能を見ると、追い越されかねないのである。
　ま、兄妹で売れっ子作家っていうのも良いかもなぁ……。
ぼんやりとそんなことを考えた。
「……頑張って追いつきたまえよ、我が妹よ」
そう言って頭を撫でてやると、依月が少しだけ嬉しそうな顔をしたように見えた。
最近は擦れ違ってばかりかと思っていたが、実はそうでもなさそうだ。今度昔使っていた万年筆でもあげてやるか、と思った。
まだ紗月が学生で、そのペンを使っていた頃にねだられた記憶がある。依月が小説家の夢を諦めなかったらあげるよ。と、約束したのだ。
昔はひよこのようだった妹の成長ぶりに兄として、父親代わりとしては嬉しい限りであった。
　さて、もう一人の妹は大丈夫だったかな……。
と、常に明るく振る舞っている強くて脆い妹のこと思って、紗月は依月から目を離し、彼女らが帰って来るであろう正面を向いた。
　今年こそ、今年こそは彼女が心から笑えるようになりますように……。
父親、母親代わりとして自分が未熟だった所為で彼女の心の重石が増えてしまったのなら、兄失格である。
紗月はずっと自分があの時、泣きじゃくる香月に曖昧な答えを返してしまったことを悔やんでいた。サンタでも、叶えられない事はある。と、きちんと教えていればあの子がここまでボロボロになることはなかったのではないか、と。

　そしてそれからすぐに、前方から２人の人影が見えた。
一人は出ていったときよりも２倍は軽そうな足取りの、ポニーテールの少女。そしてもう一人は出ていったときよりも２倍は重い足取りの、隣の少女よりも背の低い少年。
　……こりゃ二人とも一皮剥けたかな。
その２つの影を見て、紗月は一人、いつもよりも優しい笑みを浮かべるのだった。
良かった。と、思う。これでもう香月が赤い幻想に囚われることはなくなったのだ。
　２人を迎え入れて、車は家路へと帰り始めた。
発車した途端、よっぽど疲れていたのか、あっという間に眠ってしまった香月。その目の周りが赤く腫れていることは敢えて気が付かなかったふりをした。
　相変わらずラジオからはクリスマスソングが流れ続けているどうやら今夜はオールナイトらしい。
「……紗月さん」
ふと、後ろにいた少年に声をかけられる。その声は少し暗かった。
「んー。どしたのー？」
何となく予想は付いていたが、いつも通りの口調で答える。
「……俺、香月にフラれました」
……やっぱりか。と思った。
「それはそれは残念だったねぇ」
「……残念。でしたねぇ……」
苦笑して答える少年。案外、傷は深くないのかも知れない。
「で、何で僕にそんなこと報告するの？」
「何となく、ですかね。黙ってたく無かったもんですから」
「ふーん……」
　この幼なじみも顔こそは童顔のままだったが、気付かない内に随分と大人っぽくなったものである。いつもびーびー泣いては妹に叱られていた面影は今は何処にもなかった。
そしてその少年は、一瞬だけ香月に目を向け、それから紗月の方を向いて、こう問うてきた。
「……紗月さんは、さ、サンッ、タクロー、ッス……って何だと思いますか？」
　かなり片言だが、その単語を彼が発したことに驚いた。自分が植え付けたトラウマの所為でもう二度と言う気は無いのだと思っていたのだが、彼も彼なりに克服しようとしているのかもしれない。
……正直、遊びで言った言葉がここまで彼の精神に影響を与えてしまうとは思ってもみなかったのである。かなり無責任なことをしてしまったと最初は反省していたが、サンタを怖がる姿が面白く、その後は彼にとっては半ば拷問のような事をして遊んでいた。香月にシンクロナイズドダンシングサンタ(ホラー仕様)を仕掛けるように指示したのは自分である。……なんて事はもう口が裂けても言えなかった。
「……随分とアバウトな質問だねぇ……」
「う……。すいません……」
　恐縮する少年に笑いかけながらも、紗月は考えてみた。
そして「んー……、僕にとってはね……」と付け足し、言う。

　「変幻自在の、変だけど愛すべきモノ。かな？」

　

　サンタクロース。
　　真っ赤な服と帽子に身を包んだ、優しい笑顔のお爺さん。
　世界中の子供達に夢と希望を配って回る、愛すべき人物。
　その愛は平等とは言えないかもしれないけれど、万人に訪れ、幸せを与えくれる。

　メリークリスマス。今宵は良い夢が見られますように……。

　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終

■あとがき■

　ぐぉめんなさぁぁぁーーーいっ!!

　いきなり叫んですいません。因みに赤い今人風に読んでいただければ幸いです、分からない人は気にしないで次へゴー。
……あ、紹介が遅れました。今回初参戦？　となる新入部員の真﨑珠亜です。まざきしゅあ、とお読み下さい。何故前回の学校祭号にいなかったのかというと……
　間に合わなかったからだよ（おいおい
今回も〆切一日遅れです。ホント新入生のくせに何をやってんだボカァ……。
　制作秘話、と言うような大したモノではございませんがここで入稿が一日遅れてしまった理由を書いておきます。少しでも哀れに思ってくださった方がいたら挙手プリーズ。
　まぁ特に読まなくても良い話なので、飛ばしたい方はどうぞ下へ行って下さい。

　12月10日、午前７時15分。
　真﨑は焦っていた。それは何しろその日が文芸部誌の〆切の日であったからだ。
　前回出せなかったこともあり、今回こそは！　と宿題も何もかも放り出して完徹で原稿を終わらせたのだが、出来上がったのがなんともう学校に行かねばならぬ時間！　ここまで計画性が無いのはもうアフォとしか言いようがない。
　とりあえず印刷だけでも！　と訝しがる両親の目も気にせず急いでセットしようとする。が、ここで緊急事態発生。
　コンセントの穴が足りない！
　なんてこったい！　と思いつつも急がなくてはならない。
　『そうだ！　一旦パソコンのコンセントを抜こう！』
　パソコンならば内蔵バッテリーが入ってるので40分程電力の供給が無くても平気だと思ったのである。
　一気にパソコンのコンセントを引き抜き。印刷機のコンセントを差し込む。あとはちょっと接続して印刷するだけ……。
　と準備をしていたのだが、

―――――――プツンッ…。

　「!?」
　何と、今まで一太郎画面を開いていたマイパソコンが息絶えたのである。
　「え、ちょっ、はぁ!?　おまっ……！　え？　……えぇっ!?」(原文ママ)
　……絶対データ消えたよ、これ。
　まぁ私は５ページから16ページまで、11時間(長っ)かけてやっとの思いで完成させ、保存をしていなかったのである。馬鹿である。
　そしてそのまま、私は鬱気分で学校へと向かったのであった……。

　とまぁ、これが遅れた理由です。このときほどタイムマシンが欲しいと思ったことはなかったですね。
　家に帰ってパソコン付けたら何とかバックアップデータが残っていたので良かったのですが、もう二度とこんな思いはしたくないと思いました……。

　さてさて、小説のことですが。こんな駄文乱文を載っけて何を考えているんでしょうね私は？
しかも長い。最後まで読んでくださった方がいらっしゃるならば、菩薩として讃えます（え
　結局何が書きたかったのか、読み返すと自分でも謎です。最初はただのギャグのハズが何故か途中でラブコメのこっぱずかしい青春モノになっちゃったし。小説としてはあり得ないような形式やっちゃうし、こんな暴徒は私だけだと思います。小説の神様ごめんなさい。
　そもそもサンタ恐怖症って何だいお前さん。
　でも私はこの子達が好きです。大体本筋とは違う会話をし出すので修正に苦労しましたが……。
こいつらホントにキャラが濃ゆくて疲れます。鈴嶺に香月に依月に紗月……、と男は女っぽい名前で、女は男っぽい名前にさせています。ハッキリ言って趣味です。ごめんなさい。
　鈴嶺はどちらかというと鈴音の方が似合うような気もしますが、男か女か分からなくなりそうだったんで止めました。正直止めて良かったと思います。
　なんだか自分の趣味や小ネタを散りばめた一作となってしまいましたが、どうぞ生温かい目で見てやって下さい。そして元ネタが分かった人はひっそりとほくそ笑んでください。私が喜びます。
　尚、この作品によって不快感を持たれた方がいらっしゃったらここで謝っておきます。すいません。それでも修まらない場合は、図書室で「このふざけた作品を書いた真崎ってやつぁどこだ」と言っていただければ、直ぐにでも参上いたします。
　また逆に、この作品や、キャラに好感を持ってくださる人がいらっしゃったのなら幸いです。
　では、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました！
　また次の機会にお会いできることを祈っております。
　2007年12月11日　真﨑珠亜

　※尚、この作品は加筆修正したもので本部誌と多少異なるところがあります。ご了承下さい。

« prev
next »

http://bungeiclub.nomaki.jp/

design by {neut}